
最近、プロボクサーの減量をサポートする中で、よく感じることがあります。
「体重を落とすなら、食べなければ食べないほどいい」と思っている選手が意外と多いことです。
確かに、食べる量を減らして大きなカロリー赤字を作れば体重は落ちます。
しかし、人間の身体は「食事を半分にしたら、脂肪が2倍のスピードで落ち続ける」というほど単純ではありません。
むしろ極端な食事制限を長く続ければ、身体は消費エネルギーを抑える方向へ適応することがあります。
さらにアスリートでは、回復や練習の質、競技パフォーマンスまで犠牲になる可能性があります。
今回は「食べないと痩せれない」という少し逆説的なテーマから、食べなさすぎる減量で身体に何が起こるのか、そしてTune Upがなぜ「数カ月先を見据えた減量」を大切にしているのかを論文と現場経験から解説します。
目次
1. 食べなければ本当に痩せる?
まず大前提として、食事量を減らしてエネルギー不足を作れば体重は落ちます。
「食べなさすぎると飢餓モードになり、脂肪がまったく燃えなくなる」という説明は正確ではありません。
エネルギーが不足すれば、身体は蓄えているエネルギーを利用します。
しかし問題は、食べる量を減らした分だけ、ずっと計算通りに脂肪が減り続けるわけではないことです。
でも、
「食べなければ食べないほど効率よく痩せる」
とは限りません。
2. 無人島で考える「食べなさすぎる身体」
私はお客様や選手にこの話をするとき、「無人島への遭難」に例えることがあります。
船が故障して無人島へ流れ着きました。
船は動かないので、いつ島から出られるか分かりません。
「体脂肪」などの備蓄
毎日食べている「食事」
島で十分な食料を確保できないなら、当然、船に残っている食料を使わなければ生きていけません。
しかし、いつ救助されるか分からない状況で、船の食料を普段と同じペースでどんどん食べるでしょうか?
おそらく多くの人が、食料を少しずつ使いながら、無駄に歩き回ったり体力を消耗したりせず、できるだけ長く生き延びようとするはずです。
3. 身体はエネルギー消費を節約する
減量に伴って体重や除脂肪量が減れば、身体を維持するために必要なエネルギー量も低下します。
さらに研究では、それだけでは説明できないエネルギー消費量の低下が起こる場合があり、「適応性熱産生(adaptive thermogenesis)」や「代謝適応」と呼ばれています。
2022年のシステマティックレビューでも、減量後の代謝適応は複数の研究で確認されています。
ただし、その程度には個人差があり、質の高い研究ほど影響が小さいケースもあります。
「食べないと脂肪燃焼が止まる」という意味ではありません。身体は備蓄を使います。ただ、極端なエネルギー不足が続けば、身体は消費を抑える方向へ適応することがあります。
4. 「基礎代謝以下なら痩せない」は正しくない
もう一つよく聞くのが、「基礎代謝以下まで食事を減らすと痩せなくなる」という話です。
これも少し違います。
基礎代謝量は、生命維持に必要な最低限のエネルギー消費量を示す指標の一つであって、「1kcalでも下回った瞬間に身体が省エネモードになる境界線」ではありません。
特に運動量の多いアスリートでは、摂取カロリーだけを見るのではなく、運動による消費を差し引いた後に身体の生理機能へ利用できるエネルギーがどれだけ残るかというEnergy Availability(エネルギー利用可能量)の考え方が重要になります。
仮に同じ摂取カロリーでも、運動で使っているエネルギー量が違えば、身体に残るエネルギーは大きく異なります。
5. アスリートは体重だけ落とせばいいわけではない
ここが一般的なダイエットとボクサーの減量で特に意識したい違いです。
ボクサーには計量があります。しかし、計量をクリアすることが最終目的ではありません。
その後に試合があります。
極端なエネルギー不足が長く続くと、Low Energy Availability(LEA)につながる可能性があります。
IOCのREDsコンセンサスでも、問題のある低エネルギー利用可能状態が続くことで、エネルギー代謝、筋骨格系、免疫機能、グリコーゲン合成など幅広い身体機能や競技パフォーマンスへ影響する可能性が示されています。
※Low Energy Availability(LEA)とは?
食事などから得たエネルギー摂取量が、運動で消費したエネルギー量を下回り、身体の基本機能を維持するためのエネルギーが足りていない状態
できるだけ戦える身体を残したまま
階級の体重へ近づける作業です。
6. 食べない減量で練習の質まで落ちる
食事を大幅に削りながらハードな練習を続ければ、身体を回復させるためのエネルギーも不足しやすくなります。
↓
エネルギー不足・回復不足
↓
練習の質が落ちる
↓
「もっと練習しないと」と焦る
↓
さらに疲労が蓄積
体重計の数字だけを見れば減量は順調でも、動きが悪くなっているなら一度立ち止まって考える必要があります。
減量中だから動けないのは仕方ないで終わらせず、食事・練習量・疲労・回復をセットで見ることが重要です。
7. そもそも「食べないと間に合わない」を作らない
そして、私が今回最も伝えたいことの一つです。
計量1カ月前になって、
となれば、最後は食事を大幅に削って帳尻を合わせたくなります。
でも、本来考えたいのは「なぜ1カ月でそこまで落とさないといけない状況になったのか?」です。
これは一般のダイエットでも同じです。
1カ月で無理やり5kg落とそうとするのと、数カ月の時間を確保して少しずつ落としていくのでは、必要なカロリー制限の大きさが変わります。
「いつまでに何kg落とすのか」から逆算して、食べながら落とせる時間を確保することも大切です。
8. 中元が2400kcalでも体脂肪率一桁まで落とせる理由
ここで私自身の減量を例にします。
2,400 kcal / 日 を摂取しながら、最終的に体脂肪率一桁まで落とすことができます。
もちろん、「2400kcal食べれば誰でも痩せる」という意味ではありません。
必要なエネルギー量は、体格・筋肉量・性別・活動量・トレーニング量などによって大きく変わります。
ここで伝えたいのは2400kcalという数字ではありません。
私が減量するときには、最初から約3カ月の猶予を見ています。
大切なのは「どこまで食事を減らせるか」ではなく、食べながら落とせるだけの期間を確保すること。私はそのために約3カ月の時間を取っています。
9. 1カ月の辛い減量より3カ月の計画的な減量
・空腹が強くなりやすい
・疲労が蓄積しやすい
・練習の質を保ちにくい
・筋量を失うリスクも高まりやすい
・精神的にも辛くなりやすい
・食事量を確保しやすい
・回復まで考えやすい
・トレーニングを維持しやすい
・除脂肪量の維持を狙いやすい
・途中で微調整する時間がある
もちろん、3カ月あれば絶対に楽に痩せられるという意味ではありません。現在の体重、目標、活動量によって必要な期間は変わります。
それでも、同じ体重を目指すのであれば、1カ月で帳尻を合わせる辛いダイエット・減量より、数カ月の余裕を持って必要な栄養を摂りながら落とす方が現実的です。
食べない努力より、
食べながら落とせる計画を作る。
10. まとめ|「食べないと痩せれない」の本当の意味
「食べないと痩せれない」というのは、たくさん食べれば食べるほど痩せるという意味ではありません。
もちろん、食べなければ脂肪がまったく燃えなくなるという意味でもありません。
体脂肪を減らすためには、基本的にエネルギー赤字が必要です。
しかし、極端な食事制限で短期間に帳尻を合わせようとすれば、身体の省エネ方向への適応だけでなく、筋量・回復・トレーニングの質など、本来残したかったものまで犠牲になる可能性があります。
脂肪を落とせるだけの時間を確保する。
だから減量では、
「何を食べるか」と同じくらい「いつから始めるか」が大切です。
これはプロボクサーだけの話ではありません。
一般のダイエットでも、1カ月で無理やり帳尻を合わせるより、数カ月先を見ながら無理の少ない食事とトレーニングを継続する方が身体づくりを進めやすくなります。
天満橋のパーソナルジムTune Upでは、単純に「食べる量を減らしてください」と指導するのではなく、現在の身体・活動量・目標を確認しながら食事とトレーニングを考えます。
さらに整体とトレーニングを組み合わせ、姿勢改善から一般のダイエット、アスリートのコンディショニングまで身体全体をサポートしています。
「食事を減らしているのに減量が辛い」
「何kcal食べればいいのか分からない」
「できるだけパフォーマンスを落とさず減量したい」
そんな方は、まず体験でご相談ください。
公式LINEから体験を相談する参考文献
- Nunes CL, et al. Does adaptive thermogenesis occur after weight loss in adults? A systematic review. British Journal of Nutrition. 2022.
- Müller MJ, et al. Metabolic adaptation to caloric restriction and subsequent refeeding: the Minnesota Starvation Experiment revisited. American Journal of Clinical Nutrition. 2015.
- Mountjoy M, et al. 2023 International Olympic Committee’s consensus statement on Relative Energy Deficiency in Sport (REDs). British Journal of Sports Medicine. 2023.
- Helms ER, Aragon AA, Fitschen PJ. Evidence-based recommendations for natural bodybuilding contest preparation: nutrition and supplementation. Journal of the International Society of Sports Nutrition. 2014.
- Garthe I, et al. Effect of two different weight-loss rates on body composition and strength and power-related performance in elite athletes. International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism. 2011.
※本記事は一般的な栄養・減量について研究報告とTune Upでの指導経験をもとに解説したものです。
必要な摂取エネルギーや適切な減量速度には個人差があります。
競技の急速減量や体調に問題がある場合は、医師・管理栄養士など専門家への相談も検討してください。